相続で「家族を幸せにする」遺言書の作り方

相続で揉めるのは「お金がある人だけ」と思い込んでいませんか?

または、相続分は法律で決まっているから、揉めようがないし、うちは大丈夫と楽観的に考えていませんか?

実は、相続で揉める原因は、法律、つまり民法の規定にあります。

相続で揉めるのは民法が原因?

民法では、誰が相続人となるか、「その相続分の割合はどのくらいか」ということを定めています。

しかし、相続分の割合については目安に過ぎず、必ずそうしなければいけないというわけではありません。

実際は、現金化できない財産も多く、また現金化することによって新たな争いが起きてしまうこともあります。

例えば、不動産です。

そのため、相続人全員で話し合いを行った結果、「遺産分割協議書」を作成して、誰が何を相続するのかを決めることになります。

この遺産分割協議書では、相続分の割合は自由に決めることができます。

極端な話、1人だけ何も相続しないとすることも可能です。

法律は、相続分について規定をしていますが、それ以上に相続人の意思に委ねていると言えます。

相続で揉めてしまうのは、「仲が悪い」からではなく、そもそも平等、公平に分けることが難しいからです。

さらに、子どもたちは、多少なりともお互いに不平等感を持っていることが当たり前なんです。

大学に進学させてもらった子、住宅購入費用を援助してもらった子、社会人になっても親と同居させてもらっている子、親の介護に努めた子・・・、もはや当事者となる相続人たちが、自ら平等に分けるのは不可能なんですね。

相続トラブル回避に遺言書が必要

先ほどのとおり、相続人となる当事者で財産を分割することは非常に難しいです。

では、どうすればいいのか・・・。

財産を与える側が、生前に遺言書を作成して「分け方を決めておく」ことが必要になります。

繰り返しになりますが、

  • 子どもたちは、自分が思っているように財産を分けてくれるだろう
  • 自分の子どもたちに限って、分け方で揉めるはずがない
  • 財産は5000万円もないから、揉めることにはならないだろう

というのは、とても危険な考えになります。

遺言書があれば、多少の不平不満があったとしても、相続紛争までに発展することはほとんどありません。

遺言執行者(第三者)が必要

相続で揉めないためには、遺言書が必要です。

しかし、それだけでは不十分と言えます。

なぜなら、遺言書が出てきたとき、もし、長男が「父がこんなものを」と差し出したら、他の相続人はどう思うでしょうか。

恐らくこうです、長男が父に「遺言書を書かせたのではないか」と。

こうなってしまっては、遺言書がきっかけで揉めることになってしまいかねません。

そこで、遺言書を作成する際に、「遺言執行者」の指定をして、遺言執行者に遺言書の保管しておくことが重要になってきます。

(ここでは詳細は省きますが、自筆証書遺言であれば法務局保管がおすすめです。)

遺言執行者の指定は、このように行います。

遺言執行者の指定(例)

遺言者は、本遺言の執行者として、次の者を指定します。

東京都新宿区西新宿7ー17ー14

行政書士 佐藤健人

遺言執行者が遺言書の内容を実現

遺言執行者の仕事は、遺言者が亡くなった瞬間から始まります。

相続人全員に対して、遺言者から生前に遺言書を預かっている旨、そして、遺言書の内容について報告を行います。

先ほどの長男が遺言書を差し出した場合と比べたらどうでしょうか。

恐らくこうなります、「父が遺言書を、そうなんだ」と。

重要なのは、「第三者」の存在、介在です。

父が、相続に関係のない「第三者」にお願いして、遺言書を作成し、保管してもらっている。

さらに、その「第三者」が遺言内容を実現するために遺言執行者となっている。

もちろん、遺言書の内容、財産の分け方も大切ですが、それ以前に遺言書の作成過程が非常に重要ということがお分かり頂けたかと思います。

遺言執行者が必要となる「もう1つの理由」

生前に遺言書を作成しておいたとしても、先ほどの長男が差し出した場合だと、遺言書の内容によっては、他の相続人からクレームが入ることは間違いありませんね。

そして、遺言書はあったとしても、他の相続人の協力が得られずに、その内容を実現することは難しくなってしまいます。

ここで、とても大切なことをお伝えしておきますね。

遺言書の「作成」と遺言書の「実現」はまったく別であること

遺言書を作成したとしても、必ずしもそのとおりに実現するとは限らないということです。

それは、遺言内容が法的に無効の場合もありますが、他の相続人の非協力や妨害があった場合の方が想定しやすいです。

そこで、遺言執行者が必要となってくるわけです。

例えば、他の相続人よりも取得分が少ない相続人からの協力が得られない場合だったとしても、遺言執行者は、自らの権限で遺言内容を実現することができてしまいます。

このように考えると分かりやすいです。

遺言執行者=亡くなった遺言者の代理人

遺言者が自分の書いた内容のとおりに、自分で実現することできません(遺言の効力が発生したときは、自分はすでに亡くなっているので)。

そのため、自分の想いを実現してくれる「遺言執行者」が必要ということです。

遺言書で「想い」を伝える

相続で揉めてしまう、その多くは「感情」です。

人間なので、仕方ありませんね。

遺言書は、財産の分け方を決めておくだけでなく、どうしてそのように分けたのか、その理由などについても触れておいた方が良いです。

例えば、長男夫妻には介護で大変お世話になったので、その分感謝の意を込めて相続分を少し多くしたとか。

遺言書において、「相続」に直接関係のないようなことを記載しておくことを「付言事項」といいます。

付言事項は、感謝の気持ちを伝えたりなど、最期のメッセージになったりします。

付言事項(例)

これまで、長男夫妻のお世話になって、平穏な生活を送ってくることができましたが、高齢になりましたので、そろそろ私の亡き後を考え、遺言書を作成しておくことにしました。

私の子どもたちにおいては、私の亡き後の相続で揉めることははいと思いますが、きちんと財産の分け方を明確にしておくことが親である私の努めであると考えています。

子どもたち全員は私の意思を十分に理解し、私の亡き後はそれぞれ家庭を大切にし、充実した人生を送ることを心から願っています。

仮に、他の相続人より多少相続分が少なかったとしても、このような付言事項が記載されていることによって、相続争いを回避できるケースが少なくありません。

相続で揉めたり、争いごとに発展するのを未然に防ぐことが出来るのが「付言事項」の効力でもあります。

私は、遺言書作成の仕事をしていますが、一番時間をかけて丁寧に行うのが、この付言事項です。

相続はよく紛争に発展しやすいことから、「争い」が続く、「争続」と言われたりしますが、遺言者の書いた付言事項によって、「想い」が続く、「想続」にすることができます。

まとめ

以上のとおり、家族を幸せにする遺言書の作り方について、お伝えしました。

大事なポイントについて、まとめましたので、再度確認してみてください。

  • 相続で家族を幸せにするには「遺言書」が必要であること
  • 遺言書で「遺言執行者」を指定しておくこと
  • 遺言執行者は「第三者」にしておくこと
  • 「付言事項」で想いを伝えておくこと

ご参考:自筆証書遺言の作成方法

自分で気軽に遺言書を作成してみたい方は、こちらの自筆証書遺言の作成方法を参考にしてみてください。

この記事を作成した専門家

この記事は、遺言・相続を専門としている行政書士佐藤健人が執筆しました。

弁護士事務所を含め、相続に関する実務経験が20年近くになります。

マイベストプロ東京に掲載

取材を受け、マイベストプロ東京に掲載されておりますので、詳しくはこちらをご覧ください。

佐藤健人 : プロフィール [マイベストプロ東京]
佐藤健人さんのプロフィール、経歴情報。東京都新宿区で活躍中の『おひとりさまの終活介護サポートを提供する行政書士』。佐藤健人プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です。

「自分と家族のためのエンディングノート作成入門」で紹介

「自分と家族のためのエンディングノート作成入門」(書籍)の第6章、遺言・相続・成年後見制度に詳しい全国行政書士一覧で紹介されています。